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沢登哲一、沢哲。私たちの同期生は〈哲っつあん〉と呼んでいますが、将校バンドに冷や飯草履、坊主頭で口をへの字に結び、入学式でも「おめぇらはまだ卵の殻を半分尻に付けているが、この学校では紳士として扱う。なにをやってもかまあねえが、他人様に迷惑だけはかけんなよ」と伝法な口調で話すのですから、粗っぽい印象を抱く人が多いでしょう。でも違います。
一度だけ授業がありました。教室に入って来るや、黒板に「ま こ と」と一字一字離してかきました。「『まこと』って、『こころのありかた』だ。そして『ふるまい』に現れる」。
卒業後は一緒に酒を飲む機会に恵まれました。酒を通じて、退き方や約束は守るものであることを、ふるまいで教わりました。「自由とまこと」を説かれたことに今頃気づいています。
哲っつあんのように飲みたい、ふるまいたい、生きたい。わたしにとっては哲っつあんが一番大きな存在なのです。
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